センパイの嘘つき
黙って歩く私の横を、先輩も何も言わずに歩く。
私が怖がらないように、人1人分の間隔をあけて、私のスピードに合わせて。
怖いくらい、優しい。
「ここで、大丈夫です」
家の前まで来たので、私は先輩にそう告げる。
「じゃあ、また明日ね」
「…もう、保健室には来ないでください」
私は、自分の足下を見つめながらそう言った。
「俺、手伝うよ。柚月ちゃんの男嫌いが治るまで、協力する」
真っ直ぐな声が、私の胸を揺さぶる。
先輩が、こんなに心配してくれているのに。
親身になってくれているのに。
それに応えることができないのが、苦しい。
「…今でも、たまにみるんです」
考えるより先に、口が動いた。