センパイの嘘つき


黙って歩く私の横を、先輩も何も言わずに歩く。


私が怖がらないように、人1人分の間隔をあけて、私のスピードに合わせて。


怖いくらい、優しい。


「ここで、大丈夫です」


家の前まで来たので、私は先輩にそう告げる。


「じゃあ、また明日ね」


「…もう、保健室には来ないでください」


私は、自分の足下を見つめながらそう言った。


「俺、手伝うよ。柚月ちゃんの男嫌いが治るまで、協力する」


真っ直ぐな声が、私の胸を揺さぶる。


先輩が、こんなに心配してくれているのに。


親身になってくれているのに。


それに応えることができないのが、苦しい。


「…今でも、たまにみるんです」


考えるより先に、口が動いた。

< 60 / 181 >

この作品をシェア

pagetop