センパイの嘘つき


「彼は、サッカー部に入ってたんです」


誰にも話したことがないのに、不思議と言葉は自然にでてきた。


サッカーが強かった彼は、先輩を差し置いてチームのキャプテンになった。


彼が嬉しそうだったから、私も嬉しかった。


でも、良く思わない先輩がいて。


彼は、その先輩に目をつけられてしまった。


最初は、かすり傷だった。


彼は練習で転んだ、と笑った。


腕に、アザを見つけた。


彼はどこかでぶつけたんだ、と苦笑した。


目が、不自然に腫れ上がっていた。


何を聞いても、彼は大丈夫、としか言わなかった。


先生や、他の先輩に相談したけど、誰も取り合ってくれなかった。


体の傷は増え、財布がなくなることも何度かあった。


私は、なにもできなかった。

< 62 / 181 >

この作品をシェア

pagetop