センパイの嘘つき
「ごめん」
声が聞こえるのと同時に、私の目の前が覆われた。
先輩で、いっぱいになる。
「せ、んぱい」
私、抱きしめられてる…
「ごめん、殴ってくれていい」
強い力で、ぎゅっと大きな腕に包まれる。
先輩でも、さすがにこの距離は辛い。
でも、それ以上に。
それ以上に、あたたかい。
溢れた涙が先輩の制服を濡らす。
先輩はなにも言わない。でも、私を抱きしめる強い力が私の心から、たくさんの感情をあふれ出させる。
苦しい、怖い。
でも、優しい。
私は震える手をそっと先輩の背中に回す。
離れたくない。
あの日、遠ざかって行った背中。
今、この背中は、ちゃんと私の腕の中にある。
お願い。お願いだから。
どこにもいかないで。
私を1人に、しないで。