センパイの嘘つき


「ごめん」


声が聞こえるのと同時に、私の目の前が覆われた。


先輩で、いっぱいになる。


「せ、んぱい」


私、抱きしめられてる…


「ごめん、殴ってくれていい」


強い力で、ぎゅっと大きな腕に包まれる。


先輩でも、さすがにこの距離は辛い。


でも、それ以上に。


それ以上に、あたたかい。


溢れた涙が先輩の制服を濡らす。


先輩はなにも言わない。でも、私を抱きしめる強い力が私の心から、たくさんの感情をあふれ出させる。


苦しい、怖い。


でも、優しい。


私は震える手をそっと先輩の背中に回す。


離れたくない。


あの日、遠ざかって行った背中。


今、この背中は、ちゃんと私の腕の中にある。


お願い。お願いだから。


どこにもいかないで。


私を1人に、しないで。

< 66 / 181 >

この作品をシェア

pagetop