センパイの嘘つき


『男の人なんて、気持ち悪いじゃん。みんな、嘘つきばっかだよ。あの人だって、そう。』


私はなにも言えない。


『ねえ』


『なにをそんなに、躊躇ってるの?』


思い出すと、今でも震える。呼吸が、荒くなる。


でも、同じくらい、ドキドキする。


体が熱くなる。


私の心臓がちゃんと動いてるんだって、分かる。


嫌だよ、怖いよ、苦しいよ。


でもね、私を包んだ先輩の匂いは、甘くて優しい匂いだったんだよ。


涙が溢れて、自然と心が優しくなる匂いだったんだよ。

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