センパイの嘘つき


女の人がなにやら先輩に言って、先輩が優しく笑う。そっと彼女の頬に触れて、キスを落とす。


私はなんだか見てはいけないものを見た気がして目をそらす。


少し時間をつぶそう。


そう思って立ち去ろうとした時、ガラガラ、と目の前のドアが開いた。


まだ目の赤い女の人が、私を驚いたように見つめる。


「あ…えっと」


「あ、ごめんね、入れなかったよね」


何か言われると思ったが、彼女はさらっとそう言ってそのまま歩いて行ってしまった。


「柚月ちゃん、ごめん、もしかして待った?」


「…いえ」


私は嘘をついてドアを閉める。


先輩は悪びれた様子もなく、平静を装っているわけでもなく、本当にいつも通りだった。


「彼女さんですか」


「違うよ」


違うのにキスするんだ。


声に出そうになって、私は驚く。


そんなこと、私が口を出すことではない。

< 78 / 181 >

この作品をシェア

pagetop