センパイの嘘つき
女の人がなにやら先輩に言って、先輩が優しく笑う。そっと彼女の頬に触れて、キスを落とす。
私はなんだか見てはいけないものを見た気がして目をそらす。
少し時間をつぶそう。
そう思って立ち去ろうとした時、ガラガラ、と目の前のドアが開いた。
まだ目の赤い女の人が、私を驚いたように見つめる。
「あ…えっと」
「あ、ごめんね、入れなかったよね」
何か言われると思ったが、彼女はさらっとそう言ってそのまま歩いて行ってしまった。
「柚月ちゃん、ごめん、もしかして待った?」
「…いえ」
私は嘘をついてドアを閉める。
先輩は悪びれた様子もなく、平静を装っているわけでもなく、本当にいつも通りだった。
「彼女さんですか」
「違うよ」
違うのにキスするんだ。
声に出そうになって、私は驚く。
そんなこと、私が口を出すことではない。