天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
「いっちゃ、やだよ……ダメだよ、ゆづくん」
さらに、天ヶ瀬くんを追い込むかのように。
「忘れてないよね……?いつまでたってもこの傷は消えないんだから」
一瞬、天ヶ瀬くんの戸惑った顔が見えたと思ったら、
唯乃さんのその言葉で、天ヶ瀬くんは何も言わず、わたしの身体をそっと下ろした。
そして。
「もも……ごめん」
申し訳なさそうに顔を伏せて、いつもより弱い天ヶ瀬くんの声が耳届いた。
よりによって、なんで……?
天ヶ瀬くんはわたしではなく、唯乃さんを選んだ。
さっきまで、わたしのことを選んでくれていたはずなのに……どうして…。
熱でおかしくなっているせいで、頭がうまく回らず、何も言葉を返すことすらできない。