天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。



「いっちゃ、やだよ……ダメだよ、ゆづくん」


さらに、天ヶ瀬くんを追い込むかのように。


「忘れてないよね……?いつまでたってもこの傷は消えないんだから」


一瞬、天ヶ瀬くんの戸惑った顔が見えたと思ったら、

唯乃さんのその言葉で、天ヶ瀬くんは何も言わず、わたしの身体をそっと下ろした。


そして。


「もも……ごめん」


申し訳なさそうに顔を伏せて、いつもより弱い天ヶ瀬くんの声が耳届いた。


よりによって、なんで……?

天ヶ瀬くんはわたしではなく、唯乃さんを選んだ。


さっきまで、わたしのことを選んでくれていたはずなのに……どうして…。

熱でおかしくなっているせいで、頭がうまく回らず、何も言葉を返すことすらできない。

< 134 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop