天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
ふと、唯乃さんの顔を見ると、奪ってやったと言わんばかりの顔でわたしのほうを見ていた。
「なぁんだ、別にゆづくんいなくても送ってくれる子いるみたいじゃない」
ふふっと、楽しそうに笑いながら、再び天ヶ瀬くんの腕に引っ付いた。
「これでゆづくんは唯乃と一緒に帰れるってことね?一件落着じゃん!ほら、そうと決まれば早く帰ろ?」
わたしから天ヶ瀬くんを引き離すように腕を引っ張った。
今度こそ身体がダメだと思い、フラついたら、愁桃の温もりに包まれた。
「じゃあ、わたしたち帰るから。じゃあね、ももちゃん?」
最後まで、天ヶ瀬くんはわたしに何も言わなかった。
こんなにもあっさり、幼なじみのほうを選ぶなんて……。
はたから見たらおかしなことだ。
彼女より幼なじみを選ぶんだから。