天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
***
いつも通り、ホームルームが始まり、先生がプリントを配り始めた。
前の子からプリントを受け取り、後ろに回さなければいけない。
前は、この瞬間がドキドキして好きだったのに……。
今は振り向くことすらできなくて。
身体を少し横に向けて、後ろは向かずに後ろの机にプリントを置いた。
だけど、うまく置くことができなくて、パラっと落ちた音がして
思わず後ろに振り返り、拾おうとした。
「っ……」
失敗した。そんなことしなければよかった。
わたしが拾おうとする前に、天ヶ瀬くんが反応して、はっきり目が合った。
そのとき、プリントに伸ばしていた指先が、天ヶ瀬くんの指先と少し触れた。
一瞬、まるで時が止まったみたいに、
その場から動くことができなかった。
ただ、触れられた指先はどんどん熱を持って、それが全身に伝わっていく。