天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
近所だから、着くのは結構早くて、カゴを持って醤油がありそうなコーナーを探す。
「あ、あったあった」
調味料のコーナーはわかりやすくて、すぐに見つかった。
どこのメーカーのものを買えばいいかスマホをいじりながら歩いていると
「いた……っ」
誰かにぶつかってしまった。
相手が声を出して、倒れそうになったので、とっさに顔を上げると。
「あ……」
ぶつかった相手を見て、思わず声が漏れた。
最悪だ……なんで会ってしまったんだろう。
向こうもそんな顔をしていた。
そこには、家族と一緒に買い物に来ていた……唯乃さんの姿があった。
「あら、唯乃のお友達かしら?」
固まるわたしにそう話しかけてきたのはおそらく、唯乃さんのお母さん。
とても品があって、唯乃さんの可愛らしい顔立ちは、お母さんそっくりだった。