天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
こんなにもあっさり奪われてしまったファーストキス。
触れたのは一瞬だったのに、それはもう忘れられない感触になった。
押し付けられた、唇の柔らかさが消えない。
「そんな顔するんだ?」
まって、わたし今どんな顔してる?
頭の中は真っ白に近くて、
そんな中でうまく自分の表情なんか作れるわけなんかなくて。
「……もっとして欲しそうな顔してる」
「っ!?」
天ヶ瀬くんにそう言われて、思いっきり動揺した。
向こうは、キスのひとつやふたつ、どうってことないのに。
それを証拠に、慣れていたキス。
キスに持っていくまでの視線の絡ませ方、自然に添えられた手。
全てを包み込むように、押し付けられた唇は決して強引ではなくて
素直に……
もう一度されたいって思えるようなキスだった。