天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
はぁ、と盛大なため息がこちらに向けられた。
「あなたからゆづくんを取り戻して、わたしの元に戻ってきてくれて幸せだったわよ。もし、わたしに気持ちがなくても、きっとゆづくんの気持ちは、またわたしに向くと思ってたのに……」
今度は、悲しそうな横顔が見えた。
「なのに、わたしのそばにいるゆづくんは空っぽで……唯乃のことなんか眼中になくて……。なんでも言うことを聞いてくれるのに、その中にゆづくんの感情とか意思が何もなくて。そんなゆづくんがわたしは欲しかったわけじゃないのに……っ」
次第に感情的になってきたのか、大きな瞳から涙が溢れてきた。
そんな姿を見て、思わずカバンに入っていたハンカチを手渡すと。
「いらない……っ。あなたのそういうところほんとに大っ嫌い……っ」
と、手を払われてしまった。