天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
背後に1人の男の人の気配を感じた。
最初は軽く荷物が当たっているだけかと思っていたのに。
「っ、」
それは違った。
足をなぞるように触る気持ち悪い感触を感じ取る。
……うそ、最悪だ。
自分がまさかこんな目に遭うなんて想像もしてなくて。
手を振り払うべきなのか、それとも声を出して助けを求めればいいのか。
だけど、そのとき声なんか出なくて。
無駄に足だけは震え出してしまって。
目の前の手すりをギュッと握って、そのまま目を閉じて、このまま耐えるしかないと思った。
なのに。
「ねー、そこのおじさん」
1人の男の子の声がバスの中でとても大きく聞こえた。
そしてさっきまで触れられていた感触は無くなっていて。
「いい年して、自分の娘くらいの子にそーゆーことして恥ずかしくないの?」
目を開けると、そこには男の子がおじさんの手をしっかり掴んでいた。