天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
そんなどうでもいいことを考えていると
『この先、電車が揺れます。ご注意ください』
車内にそんなアナウンスが聞こえてきた。
最悪だ……。頼むから揺らさないでよ車掌さん。
なんて、無駄なことを願っていたけど、いいことを思いついた。
つり革なんか届かなくても、近くにいる愁桃につかまればいいだけのことじゃないか。
わたしって頭いいかもしれない!
ギュッと、愁桃のシャツの裾を握ってみた。
よし、これでつかまるものがあるから一安心……かと思いきや。
一瞬、愁桃の肩がピクッと跳ねたのが見えた。
そして。
「バーカ。握るところが違うだろーが」
「え?」
裾をつかんでいたはずの手は愁桃の空いているほうの手でしっかり握られてしまった。