天ヶ瀬くんは甘やかしてくれない。
***
━━━バタンッ……。
部屋の扉が閉まった音が耳に入ってきたと同時に、後ろから愁桃の温もりに包まれた。
あれから帰り道は何も言わず、連れてこられたのは愁桃の部屋。
「しゅ……うと」
呼びかけると、さらに強く抱きしめられた。
さっきまで手に持っていたカバンがドサっと落ちた音が遅れて聞こえてくる。
そして……。
「……なんで俺じゃダメなんだよ」
静かな空間に拾ったその声は、強く抱きしめる腕とは正反対で弱々しかった。
わたしにだってわからない……。
どうして愁桃じゃなくて、天ヶ瀬くんなんだろうって。
この手を取ることができるなら、取ってしまったほうが幸せになれるはずなのに。
簡単なことなのに、気持ちは動こうとしない。