守りたい人【完】(番外編完)
それなのに、私は自分の事ばかりしか考えてなくて恥ずかしくなる。

さっきも、鍛冶君がせっかく私の為にここに連れてきてくれたのに、朝比奈さんの事ばっかり話して。

鍛冶君の気持ちを知らなかったとはいえ、傷つけてしまったと思う。


そんな自分が情けなくて、いよいよ涙が出てきそうになって、慌てて目をこする。

すると、私の頭を撫でていた鍛冶君が小さく笑って、そのままそっと私を抱きしめた。


「俺な、姫野荘に来て、ようやく志穂ちゃんと会えた時、本当に飛び跳ねたいほど嬉しくてドキドキしたんや。だけど、それよりも驚いた事があってな」

「驚いた、事?」

「そや。それはな、志穂ちゃんの表情や。初めて見たあの時の顔と全然違ったから。あんなに辛そうやったんに、そんな事嘘みたいに、ええ顔になっとった。――きっと、朝比奈さんのおかげなんやな」

「――っ」

「それでも負けとうなくて、必死にアタックし続けた。もちろん志穂ちゃんは気づいてくれへんかったけどな。だけど、いつも志穂ちゃんの視線の先は朝比奈さんで、いつまで経っても俺の事は見てくれへんかった」


ポンポンと私の背を優しく叩く、大きな手。

そして、慈しむように私の髪を撫でてくれる、大きな手。

そこから、愛が伝わって更に涙の量が増す。

きっと、泣きたいのは鍛冶君の方なのに、何故か涙が止まらなかった。


「本当は言うつもりなんて、なかったんよ。今の関係が俺は好きやさかい。それでも、あまりにも志穂ちゃんが『朝比奈さん朝比奈さん』いうから、悔しくて思わず言うてしもたわ」

「ごめんなさい……」


鈍感でデリカシーがなくて自分の事ばかりの自分の性格に嫌気がさす。

どれだけ、自分が鍛冶君を傷つけていたんだろうと落胆する。

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