守りたい人【完】(番外編完)
想い
朝比奈さんが自分の事を話してくれた、次の日。
私と鍛冶君は、近所の人達に朝比奈さんの暴力事件の誤解を解くために奮闘した。
話を聞いた、たまちゃんも一緒になって近所を回ってくれたり、お店に来る人達に言って回ってくれた。
その噂が広がるのも早くて、誤解はあっという間に解けた。
朝比奈さんも今まで通りに仕事をする事ができて、近所の人達も以前と同じように接してくれるようになった。
その手の平を返したような態度には少しカチンときたけど、朝比奈さんは何も思ってないみたいだ。
相変わらず不愛想だけど、それでもあの日を境に以前より少しだけ近くに感じるようになった気がする。
今まで頑なに自分の事を話さなかった朝比奈さんが、自分の事を話してくれたおかげだと思う。
楽しかった日々が、少しづつ戻ってくる。
朝比奈さんも食事の時間に合わせて帰ってきてくれるようになって、今では3人揃って夕食を食べている。
下宿屋のリフォームも再開して、休みの日には3人揃って作業をしたり、夜になれば縁側に腰を下ろしてビールを飲んだりして過ごした。
そんな中で、変わらずあるのは私の朝比奈さんへの想い。
ムクムクと大きくなるそれは、もう両手から零れ落ちそうになっていた。
この気持ちを知ってほしい。
私だけを見てほしい。
そんな思いが溢れて、胸がいっぱいだった。
それでも、臆病な私はなかなか自分の気持ちを伝えられずにいる。
言うチャンスはいつでもあったのに、土壇場になると怖気づいて声が喉に張り付いた。