守りたい人【完】(番外編完)
今だ、と思う。

心のどこかで誰かがそう言った気がした。


「朝比奈さん」


だから、小さく彼の名前を呼んで視線を空から隣に向ける。

すると、同じように視線を下ろした朝比奈さんが私を見つめた。

その瞳をじっと見つめ返して、口角を上げる。

今なら素直に言える気がした。


「好き」


落ちた言葉は、どこまでもシンプルで飾らないもの。

だけど、これ以上の言葉はいらなかった。


その言葉を言った瞬間、今までウジウジ足踏みしていた気持ちが消えていく。

湧き上がるのは、あなたを好きな気持ちだけ。


「好き、なの」


もう一度そう言った瞬間、朝比奈さんは瞬きも忘れて私を見つめた。

その姿が可笑しくて、思わず笑ってしまう。


「言っておきますけど、冗談でも酔った勢いでもないですよ?」

「――」

「私の素直な気持ちです」


不思議と緊張しなかった。

やっと言えたっていう達成感みたいなものしかなかった。
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