守りたい人【完】(番外編完)
「鍛冶……くん」

「何考えてるんや。志穂ちゃんは、ここにいろ」

「離してっ」

「行ったら、アカン!」


必死に掴まれた腕を離そうともがくが、強く掴まれた手は離れてくれない。

その間も朝比奈さんは、外に向かって真っすぐに歩き出す。


嫌だ。

行かないで。

ここにいて。


込みあがる言葉は沢山あるのに、一つも出てこない。

言葉になりきらない声ばかりが落ちては消える。

すると。


「鍛冶」


不意に歩きながら僅かに振り返った朝比奈さんが、鍛冶君を呼んだ。

その声に、私達の動きが止まる。

そして。


「志穂を頼んだぞ」


軽く片手を上げてそう言った朝比奈さんは、そのまま一度も振り返る事なく体育館を出て行った。

残された私達は、何も言わずにその背中をずっと見つめていた――。

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