守りたい人【完】(番外編完)
「ねぇ、見て志穂。船で巡るんだけど、ここのお料理とっても美味しいみたいなのよ~」
楽しそうに旅行のパンフレットを見せてくる母に苦笑いを浮かべる。
父も揃って、旅行の見所を私に披露してくる。
その2人のあまりにも楽しそうな姿に、出かかっていた言葉を飲み込んだ。
今まで何不自由なく育ててくれたにも関わらず、強引に家を出て今の今まで帰らずに好き放題してきた私。
だったら、少しくらい親孝行するのが一人娘としての義務なんじゃないだろうか。
今日まで携帯で探した目ぼしい会社に就職すれば、再びパッタリと家に帰る事はなくなって仕事に追われる日々になるのは目に見えている。
私がいなくなれば両親は下宿の仕事もあるから国内旅行すら難しくなるのは間違いない。
だったら、両親の言うように、今がいいチャンスなのかもしれない――…。
ツラツラと頭の中でそう結論付けて、再び両親に向き直る。
相変わらず、私の存在も忘れて2人楽しそうに旅行の計画を立てていた。
その、あまりにも仲睦まじい姿を見て、反対していた気持ちがみるみる小さくなっていく。
昔から、両親には我儘を聞いてもらってきたんだ。
だったら、そんな両親の我儘を今度は私が聞く番だろう。
ハァっと諦めにも似た溜息を吐く。
そして、考えていた今後の人生設計を一度崩して目の前の両親を見つめた。
「――…分かったよ」
小さくそう言った私を見て、一瞬両親が動きを止めて私の顔を見る。
それでも、次の瞬間弾けるように笑顔になって私の手を取った。