守りたい人【完】(番外編完)
気の合わない2人
「と、いうわけで、今日からよろしくお願いします」
そう言って、立ちながら深々と頭を下げる。
それでも、しばらく経っても返事がなくて、オズオズと顔を上げた。
するとそこには、椅子に深く腰掛けながら表情一つ変えずに黙々と私が作った生姜焼きを食べる彼、朝比奈 誠がいた。
その、見事なまでのスルーに一瞬カチンとくるが胸の奥に押し込めて再び口を開く。
最初が肝心だと、自分に何度も言い聞かせながら。
「あ、えっと、名前は、志穂と申します。姫野志穂」
「――」
「両親が旅行に行ってる間、私があなたの、えっと朝比奈さんのお世話をさせてもらいます」
聞こえていないのかと思って、慌てて彼の前に腰かけてもう一度頭を下げる。
それでも、彼は箸を止める事なく無関心・無表情を貫いていた。
その姿に、猛烈に腹が立ってくる。
――…世界一周に行くと宣言した数日後、ウキウキした様子で旅行に向けて家を出て行った2人。
数日の間にバタバタと仕事内容を教えもらい、今日からいよいよ私の下宿屋のオーナー? 生活が始まった。
最初が肝心だと思って、得意の生姜焼きを作って、最悪だった第一印象を払拭しようとしているのに、この男のこの態度は一体何なんだろう。