守りたい人【完】(番外編完)
「あらあら、どうしたの、そんな辛そうな顔して」
一瞬音の無くなった世界に聞こえたのは、どこまでも優しい声。
ゆるゆると視線だけ隣に向けると、優しく瞳を垂らして笑う女性がいた。
「何か辛い事でもあったのね?」
「――」
「頑張りすぎは良くないわよ。疲れたなら、少し休まなきゃ」
「――」
「ね?」
何も言えずにいる俺に女性は優しくそう言った。
まるで自分の子供に話しかけるように、そっと。
その、全身から滲み出る優しさを感じて、不意に目頭が熱くなる。
だから、逃げるように下を向いて唇を噛み締めた。
そんな俺を見て、女性は小さく笑った。
「あなたも、泣くのが下手なのね」
そして、石のように固まった俺の肩を一度優しく撫でた。
慈しむようなその優しさに、いよいよ涙が込み上げてくる。
それでも、泣くわけにはいかず、ぐっと拳を握って涙を押し込んだ。