守りたい人【完】(番外編完)
誤魔化しのないその言葉に、瞬きも忘れて立ちすくむ。

その言葉の意味を理解して、息を飲む。


「あんたはここに来て変われないんじゃなくて、変わろうとしてないだけだ」

「――」

「ここは自分の居場所じゃないと決めつけて、自分の殻に閉じこもっていた。それを周りのせいにして下ばかり向いてる」

「――」

「見たいものしか見ない世界で、人は変われないぞ」


その言葉に、息も出来ないくらいの衝撃を受ける。

まるで頬を叩かれたような気持ちになる。


「失ったものばかり数えるな」


力強いその言葉に、目の前が一気に弾けたような感覚になる。

ずっと曇りだった空が、ゆっくりと晴れていく。


無意識に止めていた息を、スッと吐く。

朝比奈さんの言葉を聞いて、足掻いていた自分が馬鹿らしくなる。

結局は自分で自分の首を絞めていたんだと、朝比奈さんに言われてようやく気付いた。

自分の事なのに、自分の事が全く分かっていなかった。


小さく息を吸って、そっと顔を上げる。

視線の先に見えたのは、見た事もないほど綺麗な桜。

その桜を見て、どこか自嘲気味に笑った。


「――…失ったものばかり数えるな、か」

「――」

「本当ですね。その通りかも……」


思い返せば、無くしたものばかり数えていた。

この手から落ちてしまったものばかり拾おうとしていた。

下ばかり向いて、先に進もうとしなかった。
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