クールな御曹司の契約妻になりました

私の言葉を聞きながら、千裕さんはプールを照らすキャンドルの明りをぼんやりと眺めていた。

「そっか」

話を聞き終えた千裕さんがポツリと呟くと、また静かな時間が二人の間をすり抜けていく。


「香穂が見ているサヤカは、俺の昔の彼女」

沈黙を壊したのは、静かに言葉を紡ぎ始めた千裕さんの低くて艶のある声。
驚いて振り向いた私に、千裕さんは目を細めて微笑む。

その瞳は、笑っているのに淋しそうで、悲し気で。

うん、私がよく見ているサヤカさんの物憂げな瞳とよく似ている。

千裕さんがどこか遠い場所へ行ってしまいそうな気がして、私は思わず千裕さんの手を握った。

一瞬、驚いた表情を見せた千裕さんだったけれど、「大丈夫」小さくそう呟いて私の手を握り返してくれる。

< 118 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop