クールな御曹司の契約妻になりました
私の言葉を聞きながら、千裕さんはプールを照らすキャンドルの明りをぼんやりと眺めていた。
「そっか」
話を聞き終えた千裕さんがポツリと呟くと、また静かな時間が二人の間をすり抜けていく。
「香穂が見ているサヤカは、俺の昔の彼女」
沈黙を壊したのは、静かに言葉を紡ぎ始めた千裕さんの低くて艶のある声。
驚いて振り向いた私に、千裕さんは目を細めて微笑む。
その瞳は、笑っているのに淋しそうで、悲し気で。
うん、私がよく見ているサヤカさんの物憂げな瞳とよく似ている。
千裕さんがどこか遠い場所へ行ってしまいそうな気がして、私は思わず千裕さんの手を握った。
一瞬、驚いた表情を見せた千裕さんだったけれど、「大丈夫」小さくそう呟いて私の手を握り返してくれる。