クールな御曹司の契約妻になりました
「あぁ、奈々未さんがいつもこうして、事務所に来てくれたら私も楽しいのにな。成松さんじゃなくて、奈々未さんがいいなぁ」
動揺を悟られたくなくて、慌てて話題を逸らす。
「私はまだまだ一人前じゃないの。今の私じゃ、無理だなぁ」
私のぼやきに、奈々未さんは困った様な顔をする。
「成松さんって、いつも雰囲気怖いし、近寄りがたいっていうか」
「だけど、成松さんだっていいとこあるのよ」
「だってぇ……」
奈々未さんは私の嘆きに、可笑しそうにしながらも言いたいことが分かるという風に何度も頷いてくれる。
成松さんが悪い人じゃないってこと位知ってる。
きっと今日だって奈々未さんに書類を持ってこさせたことも成松さんなりの心配りなんだって思う。
数枚の重要書類でもないものは、いつもならメールで転送しているのだから。
それにケーキの差し入れだって、成松さんが準備してくれたことをこっそり奈々未さんが教えてくれたんだもん。
だけど、なんだかそんなこと口にするのが恥ずかしくなって、私は目の前のタルトを一口口に運んだ。