クールな御曹司の契約妻になりました
「香穂は交通事故で亡くなったんだ。雨の降る夜に俺の家に来るつもりだった」

家に帰るまで、千裕さんは一言も言葉を発することはなかった。

強ばった表情を崩さず、ワインを２人分のグラスに準備してソファーに隣同士に腰掛けた。

ぽつりぽつりと千裕さんは心の奥にしまった秘密を話し始める。

私は千裕さんの隣で、静かに彼の話を聞いていた。

「迎えに行くと伝えたんだが、『近くまで来ている。早く会いたい』とサヤカは歩いてくることになったんだ。そして赤い傘をさして、さっきのあの交差点でサヤカは事故にあった」

淡々と喋る千裕さんの話を聞きながら、ずっしりと私は肩や頭に重りをのせられたような違和感を感じ始めた。

それは段々と痛みに変わり、次第に千裕さんの話すら耳に入ってこなくなってしまった。

「千裕……、痛い。……助けて」

隣に座る千裕さんにしがみついてどうにか言葉を発した私は、目の前が一瞬にして闇に包まれた。

どこかでグラスの割れる音が聞こえてきたことだけはなんとなく分かった。
< 175 / 244 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop