クールな御曹司の契約妻になりました
成松さんが出て行った後の事務所は、いつも以上に静まり返っている気がした。
『契約結婚』という言葉が私の胸に突き刺さる。
結婚した当初に比べたら、時折私と千裕さんの関係が契約の上に成り立っていることすら忘れていることが多くなってた。
千裕さんと自然体のままで一緒に笑って、一緒に過ごす時間が楽しいとさえ思うようになっていたのに。
契約でもいいから、千裕さんの隣に居たい。
ふとそんな思いが私の胸の中をいっぱいにする。
千裕さんが、好き。
そんな気持ちに気が付いた時には涙が溢れ出てていた。
一瞬、サヤカさんの悲し気な表情が私の頭の中を掠める。
千裕さんは今もきっとサヤカさんのことが好きなんだろうな。
それに、冷静になって考えてみれば、10歳も歳の差がある二階堂グループ社長の千裕さんとごく普通の家庭に育った私が釣り合うわけない。
そもそも契約結婚なんだから、千裕さんを好きになることすら許されない。
私は声を殺して泣いた。