クールな御曹司の契約妻になりました
私と千裕さんは、あくまで契約結婚。
千裕さんにとっては今もサヤカさんを想い続けていて、私は恋愛対象ですらない。
それどころか契約で恋愛する気持ちすら禁止されているなんて……。
千裕さんのことを考えると、彼の優しくて余裕たっぷりの笑顔しか思い浮かんでこない。
涙が溢れるまでそう時間はかからなかった。
自分の気持ちのやり場を見失った私は、目の前に置いていたキンキンに冷えたシャンパンを開けて、一気に飲んだ。
「香穂、……香穂」
気が付けば、夢の世界に居た私はどこか遠い所で安心感のある艶やかな声に呼ばれた気がする。
急に宙に浮いたような感覚を覚え、ホワイトムスクの千裕さんの香りに包まれた。
「千裕さん……」
寝ぼけて声にならない声で呟くと、唇に暖かな感触が押し当てられた気がする。
誰もいない寝室で目を覚ました私が、千裕さんが一旦帰宅したことを知るとともにリビングでシャンパンを飲みすぎて不貞寝してしまった私を寝室に彼が運んでくれたことを知ったのは翌朝のことだった。