クールな御曹司の契約妻になりました
式がどうにか無事に終わり、着替えを済ませた私と千裕さんが控室で休んでいると、秘書の成松さんが顔を覗かせた。
「結婚式、お疲れさまでした」
そう言って頭を下げた成松さんの口調は、契約の時と同じで感情を一切含んでなんかいない。
「結婚式のデータお持ちしました。香穂さんは、SNSでこの写真をアップしてください。コメントはこの中から選んで、自分の言葉に修正してください」
「はい……」
この間会った時には私のことを名字で呼んだ成松さんが急に『香穂さん』と名前で呼んだことに、一瞬戸惑ってしまう。
私が戸惑っていることにどうやら気が付いた成松さんが、「あぁ」と声を漏らした。
「本日、早朝に私がお二人の婚姻届を役所に提出して参りました。そのため、本日より香穂さんは『二階堂 香穂』となります。よって、本日から『香穂さん』と呼ばせて頂きます」
本当に結婚しちゃったんだ、私。
祝福の言葉なんてものはない、表情一つ変えずに伝えられた結婚の報告を私はどこかうわの空で聞いた。