クールな御曹司の契約妻になりました
成松さんとの電話を終えた千裕さんは、眉間に皺を寄せ大きくため息を吐きだす。
「香穂、すまない。今から会社に行ってくる」
「ハイ。私なら大丈夫です」
少しでも千裕さんを安心させたくて口角を上げて笑顔を見せたというのに、千裕さんは私に心配そうな眼差しを向ける。
「帰りはタクシーを手配しておくから。それから、今夜中にまた連絡するから遅くなるが待っていて欲しい」
帰り支度をバタバタと整えながら、千裕さんはその言葉だけを残してお店を後にする。
一人取り残された私は、千裕さんに手配してもらったタクシーで家路についた。
外は春雨のような雨が静かに振っていて、タクシーの窓から見える都心のネオンを水滴でぼやけさせていて、私は嫌な予感がして仕方がなかった。