甘い脅迫生活
いえいえ、言ったのは山田さんにじゃないですよ!
そういう意味を込めて手を交互に振ってみるけれど、山田さんはじーっとこっちを見るだけ。所長と優雨はもう部屋を出て行ってしまっていて、2人は配送部へ通じる曲がり角を曲がったところだった。
「あの、山田さん?」
呼びかけても、私をじーっと見つめる山田さんは一言。
「奥様は意外と世話焼きですね。」
「ぐっ、」
パンチの利く冷やかしを放つ。それに対抗する言葉を持たない私に、珍しく山田さんは微笑んだ。
「社長はそれはそれは周囲に奥様を自慢したくてしょうがないみたいなので、あの程度で済んで良かったですね。これからの保証は致しかねますが。」
「不吉なこと言わないでください。」
誰かに私を紹介する機会なんてそうはないはず。あるとしたら優雨のご両親か、会社関係のパーティーでもあってそこでということになりそうだ。どちらの場合も、今日以上のヘマを私がしたら地獄。
「山田さん、それは全力で阻止してください。」
「奥様の言うことでしたら、私は何が何でも叶えて差し上げましょう。なにせ美織様は、我が主、西園寺優雨の奥様なのですから。」
黙りこくって悪いですが、山田さんのちょくちょくかけてくるプレッシャー、どうにかならないかな?山田さんの胡散臭い笑顔を見ていると全幅の信頼を、とはいかないみたいだった。