甘い脅迫生活
「では、失礼いたします。」
「はぁ。」
私を一人残して、結局なにが言いたかったのか分からない山田さんが歩いていってしまう。一人残された事務所。仕事をしなくちゃいけないとは思うのに、なぜかやたら疲れていて身体が動かない。
とりあえず、お茶を淹れて所長たちが残していったお菓子に手を出す。このいまいましいクッキーは、更にいまいましいことにとても美味しい。どうやら私は無意識に気を利かせたらしい。
社長を知らないのに好み知り尽くしててどうするのよ。お茶の淹れ方の好みとか、絶対知ってるわけないし。しかも、日本茶にクッキー?本人の好みを知ってない限りあり得ない組み合わせじゃない。
「はぁ。」
深く、重い溜息が室内に響いた。だめだ。このままじゃ、私……いや、もう恐らく。
「優雨に毒されてるわ。」
自然と”奥さん”をしちゃってる自分がアホすぎて、呆れすぎて。
「……アホらし。仕事しよ。」
そんな自分にうろたえている自分が一番アホだと思った。もう、気にするだけ疲れる。そう思うことにして、パソコンに向かった。
これから起こる悲劇にも気付かないで。