甘い脅迫生活
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巡回は滞りなく終了した。
と言ってもそれは、優雨……社長側から言えばなんだけど。
私たち従業員側から見れば、「もう胃が痛いから早く帰ってくれ。」と懇願したいくらいだ。
漸く、お昼前になって優雨が帰るということで、私たち従業員は再び搬入口に集められた。
もはやボコボコにされたボクサーのように戦闘不能寸前の所長と副所長。その近くで優雨が山田さんとなにやら話している。
特に所長は、私と優雨の関係を知ってしまったからなのか、視線は優雨と私を交互に見ていてせわしない。
話が一段落したのか、山田さんが所長に向かって頷いた。そこで一歩前に出た所長は、私たち従業員に注目するよう呼びかける。
「お帰りになる前に、社長から一言頂戴いたします。社長、よろしくお願いします。」
さっさと帰れよとこの場の過半数がそう思っている中、優雨はにこやかな笑顔で一歩前に出た。
それだけで、この場の空気が一気に締まった気がする。
うちのゆるゆる所長率いるうちの従業員たちがここまできちんとして見えるなんて。そうさせた優雨が正直、少しだけかっこよく見えるから困る。
「我がグループを支えてくれている配送部は、ここだけではありません。全国各地、世界でも、西園寺フードの製品を配送している部署は数えきれないほどあります。しかし、だからと言って、ここがなくなっても困らないというわけではない。」
よく通る声。力強い物言いに、誰もが耳を傾けているように見えた。