甘い脅迫生活
「美織。」
「ん?」
突然名前を呼ばれて周りを見渡せば、なぜかみんなが私を見つめている。
みんなの顔はものすごく驚いていて、なんでそんな顔をしているのかと、首を傾げた。
「美織。」
「なんですか?」
優雨が目の前で笑ってる。
ゆっくりと近付く優雨の笑顔は、頬に触れた唇の感触と同時に、見えなくなった。
周りが一気にざわついた。至近距離で優雨の笑顔を茫然と見ながら、混乱する頭をなんとか動かそうと奮闘する。
「美織は私の妻ですが、みなさんいつも通りにお願いします。あ、虐めたりはしないでくださいね?」
周りにそう言い放った優雨が、私になぜかウインクをして踵を返した。
山田さんが車のドアを開ける。
笑顔で手を挙げた優雨が乗り込むと、一礼した山田さんも素早く乗り込んで、高級車は颯爽と配送口から出て行ってしまう。
「「「「「えええええーーーー!!」」」」」
場内が騒然とする中、茫然とする私は。
「やりやがったな、あいつ。」
苦々しくそう呟くことしかできない。
興奮のあまり叫び出す人。どういうことか説明しろと私に詰め寄る人。オロオロする所長たち。
「先輩?説明してください。」
ブラックさえちゃん。
「はぁ。」
混乱の中、私がようやく吐き出したのは、ため息と優雨への悪態だけだった。