甘い脅迫生活




「へー。でもやっぱ勢いでも結婚しちゃいますよねー。だって社長だし。」

「……。」



さえちゃんの言葉に黙り込んだ。確かに私は優雨のことを何も知らない。それこそさえちゃん以上になにも。優雨に過去そんな相手がいたことさえも知らないし。


なんでだろ、私、落ち込んでる?おかしいじゃない。私は優雨のこと何も思ってないのに。


認めたくない。それなのに認めざるを得ない。



あの日、優雨に貰った高級そうな厚紙。私が知っている西園寺優雨は、その中に書いていたプロフィールだけで形成されている。


その人の過去も癖も、全てを知って結婚しなければならないということはないと思う。だけど私たちの関係はどこか曖昧で、核心が見えない。


私たちは今では何の違和感もなく一緒に暮らしているけど。


夫婦ってそういうことでいいんだろうか?


お互いの親にもまだ会っていない。会社にもきっと伝えてはいないだろう。そして決定的なことは。



これが脅迫の上でしか成り立っていない関係だということ。


私が借金を返してしまえば?いや、そもそも副業のお店はもう辞めているわけだから、今の私を責める証拠はない。


画像があるとしてもそれは過去のことで、もう辞めたと人事部に必死に訴えればどうにかなるかもしれない。きっと、必死になれば今の生活から抜け出せる。

もしかしたら優雨は、そうしてもいいようにわざとしてくれているのかもしれない。




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