甘い脅迫生活
さえちゃんと見つめ合うこと、数秒。先に視線を逸らしたのはさえちゃんだった。
「……ふはっ、」
我慢できないとばかりに盛大に噴き出したさえちゃんが、お腹を抱えて笑い転げている。
「えと、さえちゃん?」
「あははは!先輩最高~!」
「ど、どうも。」
「うはっ、お礼まで言ってる!」
どうやら私はさえちゃんを楽しませられたらしい。それは何よりですけども、そこまで笑わなくていいじゃない?
これはきっと、爆笑という名の肯定だな?さえちゃんも専務から私への高低差の激しさを感じていたに違いない。
……それちょっと落ち込むんですけど。
ようやく笑いが収まってきたさえちゃんを恨めしい目で見ていると、涙をぬぐうさえちゃんは社内報を見た。
「なんか心配してたんですけど大丈夫そうですね。さすが先輩、余裕だなー。私なら嫉妬と不安で爆発しちゃいます。」
「……それは人によるんじゃないかな?」
ここはぎこちなくでも笑うしかない。だって私は今、正直。
嫉妬してしまうほど、不安になるほど、優雨のことを好きじゃない。
まだ自覚し始めた気持ち。特別な環境も手伝って昔の女が出てきたところで不安に思う余裕もなかった。
そんな私をどう解釈したのか分からないけど、さえちゃんはにやりと口角を上げる。
「まぁ、最後に社長を手に入れたのは先輩ですしね。余裕の表情で笑ってやればいいんですよ。この負け犬美人に。」
「……。」
それは、墜としているの?褒めているの?
「とにかく、外野には先輩はラブラブって言っときます。」
「それ、情報らしい情報じゃないよね?」
外の社員さんたちを代表して事情を聴取したさえちゃんは、意外とダメダメ刑事だったようです。