甘い脅迫生活
「だって勿体ないし。おもしろ、あ、素敵なことは私だけが共有できればいいんです。」
「今はっきり面白いと聞こえたよ。」
舌を出して笑って誤魔化してみせたさえちゃんをジットリと見てみるけど、この子は反省なんてしないだろう。こんなに適当で、軽いのに。仕事はできる。ほんとに面白い子だ。
「これからの先輩の結婚生活、楽しみにしてます。」
「そんなにペラペラしゃべるわけないでしょ。」
「えー!」
不満そうなところ悪いけど、多分わざわざ話すほどのことは何もない。
……話せないくらい洒落にならないことはたくさんあるけど。
「でもいいです。山田さんとの噂は嘘だって分かったし。」
「……ある意味怪しい関係だけどね。」
まさかのここで三角関係か?と目を輝かせるさえちゃんに首を横に振って否定してみせた。凄く残念そうなところ悪いけど、山田さんが相手なら私は丁重に身を引きます。
あの人ほんとにやばそうだし。
「早速合コン仲間の秘書課の子に山田さんの噂はガセだって教えてあげます。あの子山田さん狙いなので。」
「ちょっとその子強者すぎない?」
あの山田さんと付き合いたいなんて、狂気の沙汰な気がする。ドン引きする私を他所に業務時間中にスマホをいじりだしたさえちゃんを確認して、社内報を見た。
少しだけ。少しだけ感じた胸の痛みは、無かったことにしよう。そう思ってそれを裏返した。