甘い脅迫生活
「あ、美織。」
「はい?」
佃煮とかお漬物とか、冷蔵庫に眠っているご飯のお供を全て出していて良かったと溜息を吐いた私に、優雨は
ようやく目を開けて私を見た。
「今週の土曜日、空けておいて。」
「なんでですか?」
この佃煮、優雨の貰い物って聞いてたけど。さすが高級品。めちゃめちゃ美味しいな。
「挨拶に行くから。」
「え?」
挨拶というワードのおかげで、私お箸がピタリと止まる。顔を上げれば、頬杖をついて微笑んでいる優雨が。
「両家の顔合わせ。今週の土曜日にしたから。」
「……。」
そしてどうやら私は、あと数日で一世一代のイベントをこなす覚悟をしなければならなくなったようです。
「それは、」
「うん。決定事項。」
「はぁ。」
茫然としながらも、手はきちんと動いて海苔の佃煮をつまむ。口内に広がった甘じょっぱい海苔の風味を感じながら、混乱する頭をひたすら動かして考えた。
「なんで突然決めるんですか?」
「予告したら身構えると思って。」
「……そりゃそうですけど。」
悪びれもせず笑顔の頭ボサボサ男に、内心悪態をついた。こういうのは言ってくれないと、心の準備ってものがあるでしょ?
「それでも言って欲しかったです。」
「え?」
だってなんだか、寂しい。
「私たち、一応、夫婦、なんですから。」
「……。」
2人のことだから。それは優雨と山田さんのことじゃなくて、私と優雨のことだから。
その先をなんと言っていいのか分からずにいると、優雨が溜息を吐きだした。
あ、なんか失言したかも?一気に血の気が引く。