甘い脅迫生活
「あ、ごめんな、」
「美織。そんなこと言ったら、」
「え?」
謝ろうとした私の言葉を遮って、優雨の顔が近付いた。俯きがちだった私は突然のことに思わず顔を上げて。驚きの声は、優雨の唇に吸い込まれてしまう。
「だめだろ。キスしたくなってしまう。」
「ん、」
4人掛けの食卓机は人数にしては小ぶりのもの。座っている私に優雨がキスするには、結構距離がある。それなのに優雨の身体はしなやかに動いて一気に距離を詰めていた。
食器を避けて、器用に足が机の上で支えとなっている。そんなどうでもいいことをじっと見つめながら、茫然と、私は優雨のキスを受け止めていた。
啄むように何度も繰り返される口づけは、私の目を覚まそうと主張する。
認めたくなかった。気付きたく、なかった。
キスをされて嫌じゃないなんて、決して気付きたくは、ない。
「っっ、優雨っ、」
優雨の肩をグッと押せば、あっさりと優雨が身を引いていく。
「ごちそうさま。」
「なっ、」
余裕顔の優雨のに向ける私の顔はきっと、酷いものだろう。
顔が熱い。あまりの怒りに涙さえ出そうだ。それなのにほんの少し、嬉しいと思ってしまうなんて。そんな自分が情けなくて、悔しい。
それら全てが混ざり合っているだろう表情はどんなものなのか。
分かっていることは、一つ。
優雨とした初めてのキスは、海苔の佃煮味だということだ。