甘い脅迫生活



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親に連絡するわけにはいかなかった。


なぜなら、うちの親は……


「美織、貴女本当にいいの?」

「え?あ、うん。」


特に母親が、鋭い。


「ほら母さん、美織は緊張してるだけだよ。」

「そうかしら?」

「っっ、」


ねっとりと絡みつく視線は、お母さんからの疑いの目。


「そりゃそうだよ。何せ結婚なんだから。」


基本おっとりなお父さんは疑う余地もなくニコニコしている。娘の結婚を喜ばない親はいない。お父さんは純粋に私と優雨の結婚を祝福してくれている。


「まぁいいわ。貴女が決めたことならね?」



婚姻届けの保証欄にサインをしたくせに。こうして試すような視線をよこす。だから私は、今までお母さんに電話ができなかったんだ。


もし、優雨との結婚が純粋なものじゃないと分かったら?


何をしてでも結婚させないに違いない。


そして同時にバレてしまう。


私が会社では禁止されている、副業をしていたことが。


お母さんは不正が大嫌いだった。会社を失ったのがどこかの会社に騙されたせいだということも関係しているのだろと思う。


うちの親の会社は、実質お母さんが社長のようなものだったらしい。お人よしでおっとりしているお父さんは社長という職業に致命的に向いていない。時に厳しく、冷酷な判断も必要だから。



そんなお父さんをなんとか支えていたのが、当時秘書をしていたお母さんだ。だけど、お母さんがちょっと目を離した隙に、お父さんがライバル会社に騙されてしまった。


……まるで親が子供を迷子にしてしまった時の言い訳のようだ。



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