甘い脅迫生活
そのせいで会社は倒産。莫大な借金が残った。それでも両親は、コツコツとそのお金を返し続けている。私も力になりたくて、手伝うことにしたんだ。
そんな過去があるからこそ、お母さんは嘘や悪意に敏感だ。そして不正にも、とても厳しい。
私が副業を理由に優雨に脅されているとバレてみろ。殺される。私も優雨も、あの世に行ってしまう。
それだけこの人はとても恐くて、強くて、尊敬している。
「サプライズだって言ってたけど、明らかにおかしいと思ったわ。」
「っっ、」
顔合わせ当日、ホテルのロビーで。きっちりとスーツを着こなすお母さんは腰に手を当てて笑う。娘の私でも圧倒されてしまう。自信に満ちたその表情が曇ったのを、私は見たことがない。
「だから念書を書かせたの。」
「へ?」
目の前に掲げられた紙には、はっきりと西園寺優雨の名前と捺印がある。なぞるように上へ上へ。頭から読むと、とんでもない内容が書かれていた。
「絶対に幸せにすること。そしてもしそれが守れずに離婚して美織を泣かすようなことがあれば、西園寺グループは解散。しかも美織が生活していけるだけの慰謝料を貰うわ。」
口にするのも恐ろしい、うちに有利でしかない条件。もはやこれは、ブラックな職業の方でも提示を躊躇うほどのレベルだ。
私と離婚した場合、優雨は全てを失う。しかも、日本は愚か世界まで支えている西園寺グループが解散すれば、日本経済は大きすぎるほどの打撃をこうむるだろう