甘い脅迫生活
「本日はお越しいただきましてありがとうございます。」
ピリついた部屋の空気をものともせず、優雨が一歩前に出て笑顔でそう言った。だけど優雨も、なんとなく目が笑っていない、ような?
「どうぞお座りください。我が社の取り扱う食品で特別に用意していただいた料理を堪能して帰ってくださいね。」
「あら、西園寺フードの?」
「ええ。飲み物から、デザートまで、全て。」
「それは楽しみだわ。」
どちらかが話す度に、優雨のおじさんのこめかみの青筋と眉間の皺が増えている気がする。叔母さん…奥様もかなり不快そうだ。それなのに、優雨もお母さんもその場に2人がいないかのように楽し気に話している。
……仲がいいのは、いいんだけど、ちょっと気まずかったり。
「美織。きっと美味しいぞ。楽しみだな!」
「……そうだね。」
お父さんにいたっては論外。もはやこの部屋の誰も意識なんてしていない。お父さんが今見ているのは私だけ。本当に料理が楽しみなんだ。だから空気を読むなんてできっこない。
鈍感とか、天然とか、お父さんはそんな次元で話をしていない。
借金だらけの没落家族。普通なら暗くなるはずの私たち家族を常に支えていたのは、お母さんの強さとこの、お父さんの悠長さだ。
今は少しだけ、空気を読めと言いたいけれど。