甘い脅迫生活




「優雨、どういうこと?」


すぐに私から視線を外した小竹専務が、優雨に笑いかけた。


ワインを煽っていた優雨は、静かにそれを机の上に置くと、にっこりと笑い返す。


「俺が結婚したのは知っているだろう?」

「あら、あれ冗談じゃなかったの?」



お互い、笑顔なんだけど、なんだろう、違和感。


「俺たちの結婚は形式ばったことは何一つしていないんだ。真っ先に籍を入れたくてね。先に籍を入れたものだから、今ようやく親族顔合わせをしているところだよ。」


「この忙しい時に今日オフだったのはそのせいだったのね。」

「ああ。」


なんだろうな。小竹専務は元カノで、優雨は元彼なわけで。


「体裁は守ってやったつもりだったんだけどね。本当はやるつもりはなかったんだ。しかし山田が、後々突かれないためにもやっておけとうるさくてね。」

「それは山田さんが正しいわ。」


腕を組んで話している小竹専務。口元をナフキンで拭って、席を立った優雨。どちらも笑顔。うん。なんでこんなに……


「もうデザートなんだ。食べたら帰るよ。」

「まぁ、そうよね。」


こんなに、”似てる”の?


「小竹君、君は何を納得しているんだ?優雨は君の婚約者だろう。」

「は?」


上品なのに、どこかふてぶてしいところとか、笑っていてもよそ行き用の笑顔があるところとか。


”どうでもいい相手”に向ける、視線だとか。


優雨と小竹専務は、色々ところが似ていた。いや、似すぎていた。


それを見て思うのは、この2人の間に、恋愛関係なんて微塵も成立していないのではないか、ということだ。




< 129 / 185 >

この作品をシェア

pagetop