甘い脅迫生活
「優雨、どういうこと?」
すぐに私から視線を外した小竹専務が、優雨に笑いかけた。
ワインを煽っていた優雨は、静かにそれを机の上に置くと、にっこりと笑い返す。
「俺が結婚したのは知っているだろう?」
「あら、あれ冗談じゃなかったの?」
お互い、笑顔なんだけど、なんだろう、違和感。
「俺たちの結婚は形式ばったことは何一つしていないんだ。真っ先に籍を入れたくてね。先に籍を入れたものだから、今ようやく親族顔合わせをしているところだよ。」
「この忙しい時に今日オフだったのはそのせいだったのね。」
「ああ。」
なんだろうな。小竹専務は元カノで、優雨は元彼なわけで。
「体裁は守ってやったつもりだったんだけどね。本当はやるつもりはなかったんだ。しかし山田が、後々突かれないためにもやっておけとうるさくてね。」
「それは山田さんが正しいわ。」
腕を組んで話している小竹専務。口元をナフキンで拭って、席を立った優雨。どちらも笑顔。うん。なんでこんなに……
「もうデザートなんだ。食べたら帰るよ。」
「まぁ、そうよね。」
こんなに、”似てる”の?
「小竹君、君は何を納得しているんだ?優雨は君の婚約者だろう。」
「は?」
上品なのに、どこかふてぶてしいところとか、笑っていてもよそ行き用の笑顔があるところとか。
”どうでもいい相手”に向ける、視線だとか。
優雨と小竹専務は、色々ところが似ていた。いや、似すぎていた。
それを見て思うのは、この2人の間に、恋愛関係なんて微塵も成立していないのではないか、ということだ。