甘い脅迫生活
山田さんがドアをノックする。
「はい。」
恐らくリビングであろうそこから聞こえたその声は少しハスキーで。だけどそれはよく通って私の耳にスッと入り込んだ。
漠然とだけどとても好きな声だと思った。
「脇坂美織さんをお連れしました。」
山田さんの言葉に、緊張で身体が強張っていくのを感じる。私はここできっと、クビを宣告される。なぜ家に呼ばれたのかは突拍子もなさ過ぎて考えられないけど、何か事情があるんだろう。
失敗したな。あの会社、給料がいいのに。だけど私にはお金がいるし……
そうこうしている内にも、無情にも山田さんがドアを開ける。リビングはとても広く、大きな窓から眩しい日差しが射し込み、綺麗な床に反射していた。
解放的な空間。窓際に立つ社長の影。だけど日差しは容赦なく私の目を刺激して、思わず一瞬目を閉じた。
「脇坂、美織くん。」
眩しさで見えない社長の影が、私の名前を呼ぶ。やっぱり良い声。呼び捨てにされたいな、なんて。
「脇坂さん?」
「あ、はい。」
山田さんの催促するような声に返事をすれば、窓のカーテンがゆっくりと閉まり始めた。
自動。さすが。