甘い脅迫生活
その間も繰り広げられる、竜虎の視線の探り合い。
見つめ合う2人を前に誰も言葉を挟むことができない。
「これも、美味しいわ。」
うん。専務は除く。
真剣な表情の優雨は、お母さんから視線を外さない。対してお母さんも笑顔を忘れて優雨から何かを探り続けている。
……ちょっと、見つめすぎな気がするけど。
「……ふ。」
ふと、お母さんが笑みを漏らした。満足そうに笑って、自分のワイングラスを傾ける。
「それなら、文句はないわ。私はそれが確認できれば、満足だもの。」
空になったワイングラスをテーブルの上に置くと、お母さんは席を立った。
「お父さん。帰りましょう。」
「え、デザートは?」
相変わらずのお父さんに、思わず苦笑いが漏れる。
「初めから予想はしてたから。うちにケーキがあるわよ。2人で食べましょ。」
その言葉に嬉しそうに破顔したお父さんの手を取って、お母さんは私に背を向けた。
「あ、」
だけど何かに気が付いたように止まったお母さんは、振り返って。
「それから、結婚したならうちの借金はもう返してもらわなくてもいいわ。」
「え。」
笑顔で、そう言った。
「優雨!今言った通りだ。この女の家には借金があるんだぞ!」
今だ!とばかりに伯父さんが援護射撃を繰り出すけれど、お母さんはそれを気にもせず、笑みを深めた。