甘い脅迫生活
「改めまして、わたくし、小竹万由里(こだけまゆり)と言います。」
サッと出されたのは名刺。簡潔に書かれたそれには、西園寺フード専務取締役と書いてある。なんとなくそれを見ただけで名刺が重く感じた。
「すみません、私は名刺を持っていないんです。」
「そんなの良いわよ。私は癖みたいなものだから。」
笑顔を絶やさない専務は、首を傾げるとウインクをした。か、可愛い。さすが広報誌表紙専属モデルだ。
「もう、本社は大騒ぎなのよ?配送部の事務員がうちの社長の嫁だったって!」
「え!」
どうやら、あの日の波紋はどんどん広がっていたらしい。驚く私を前に、優雨をチラリと見た専務は口に手を添えて声を落とした。
「私とあの鬼畜野郎が恋愛関係にあったなんてガセが流れてるせいでね?なぜか私が同情されて大変なの!」
「えっ、違うんですか?」
思わず大きな声が出てしまう。それに驚いたのか、専務が目を丸くした。
「まさか、貴女もなの?」
「はぁ、趣味が悪いな、と思いまして。」
言って自分でびっくりした。
「いえ!専務がじゃなくて!専務から私に行くふり幅がやばいなと思いまして!」
「……。」
必死で否定してみても、専務は固まったまま。どうしよう。そういう意味じゃないんだけど。
「どう考えても私とかないですよね!なのにこんな素敵な人と付き合ってたのにいきなり結婚なんて。アホなのかなーとか思っちゃったり。そもそもこのけっこ、」
言いかけたところで、私の口を大きな手が覆った。