甘い脅迫生活
カーテンに日差しが遮られるにつれ、社長の影も少しずつ、はっきり見えてくる。
初めに目に入ったのは口元。それは機嫌良さげに弧を描いている。高い鼻は毛穴の一つも見えなくて、キリッとした色素の薄い目はまっすぐに私を見つめていた。
形の良い眉、そしてサラサラな栗色の髪は、引き締まった社長の印象を柔らかくして引き立てている。
「山田、ありがとう。」
「いえ。」
山田さんに見せた笑みは柔らかくて、思わずドキッとしてしまうほど素敵。きっと優しい人なんだろうな。しかも少女漫画まで読むなんて。意外過ぎてそれが逆に好印象だ。
きっとこういう人は女性にも優しいんだろう。モテるだろうなぁ。
社長は私の前に歩いてくると、にっこりとほほ笑んだ。つられて私も笑みを返してしまう。社長のお顔の眩しさのせいできっと程よく引きつってるだろうけど。
性別を無視しても、このバリバリのイケメンには私なんぞが敵うわけもない。戦う前から諦められるレベルだ。
こんなに優しそうな人ならなんとかクビは回避してくれそう、なんて希望的観測をしてみる。
すると、社長は突然私の手を握ってきた。それだけで心臓があり得ないほど大きく跳ねた。