甘い脅迫生活




「いやあの、これ、ものの5分で終わりますよね?」


「は?まぁ、そうだけど。」


だからなに?とばかりの山田さんに、思わず苦笑いが漏れた。そんな私のリアクションに、何を勘違いしたのか、山田さんの表情が更に険しくなる。


「なに?社長夫人には分からないかもしれないけどさー、私ら底辺の社員だって大変なわけ。忙しいのにちょっとのミスを今すぐやれとか言われてもなー。ねー?」



井戸端会議仲間を引き入れて、まさかの私が加害者にされようとしている。



「社長夫人、マジ感じ悪い。」


そう吐き捨てる山田さん。さえちゃんならまだしも、30超えてるお姉さんが職場でこんな口調だと、さすがに引くな。


あー、これ、ほんとにさえちゃんに任せなくて良かったかも。



「感じが悪いのは結構ですが、この書類は今日までの案件なんです。そちらがミスをしたのですから、終わらせていただかないと困ります。」

「っっ、は?」



さっきから社長夫人を強調しているから、私だからヒートアップしてるってことも十分あり得るけど。


でもここは、冷静に。笑顔を絶やさずにー。スマイルスマイル。



「終業まで、あと1時間ですよね?その5分で終わる作業をちゃちゃっと今やっていただければ、終業後に所長が自ら動かなくて済むんですが。」


あっけにとられた感じの山田さん。同じ山田でも全然違うなー。なんて、どうでもいいことを考える。




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