甘い脅迫生活
「申し訳ないのですが、ミスをしているのはそちらです。このミスは私が社長夫人とか、そういうことは一切関係ないですよね?ミスはミスです。しかも凄いしょうもないやつ。」
絶句のところ、悪いけど。
「それ食べたらでいいので、これ、よろしくお願いします。」
笑顔で書類を置いて、休憩室を後にした。
「あーあ、しょうもな。」
人は妬む生き物だ。悪意もあるし、醜い。
自分の現状を不満に思えば思うほど、人の人生はとても魅力的に見えて、とって変わりたいと思う気持ちは、人によっては悪意へと変わる。
あの人たちには、理解できないんだろう。
西園寺フードの社長を夫に持つ私がここで働いていることが。
「何も知らないくせに。」
だけど、変わってほしいと思わないのは、それだけ私が馬鹿な証拠だ。
『悪い悪い。間違ったみたいだ。』
「っっ、」
強い頭痛に苛まれて、目をギュッと瞑っても、蘇る光景は、何度見ても恐ろしい。
私は、人の悪意の強さを知っている。
優しい笑顔でも、悪意を放てる人を知っている。
体験した恐怖は、皮肉にも私を強くして。
そしてあの頃でさえ冷静だった私の心は、誰であろうと傷つけられやしないと思う。