甘い脅迫生活
「お父さんを騙したのも西園寺絡みだったのよ。末端も末端の話なんだけど。」
「ええ!」
「そいつらももういないから、復讐のしようがないわよねぇ?うちの可愛い旦那騙した代償を払ってもらおうと思ってたのに。」
「……。」
「それに、あんたの誘拐だって。あのお坊ちゃんの弟と間違えられたわけだし。さすがに西園寺家が大嫌いになったわよ。」
軽い物言いでも、お母さんの怒りは並々ならぬものを感じる。さすが我が家の裏大黒柱。敵に回したくないものだ。
「でもね、それでも、優雨君は貴女を幸せにするって断言したの。」
それなのに、次の瞬間には、とても優しい母親の顔をする。ほんとに、この人には敵わない。
「信じることにしただけよ。どんな理由で結婚しようが、自分の人生と会社を賭けるほどですもの。こっちも相応のものを賭けるのは当然のことだわ。」
「娘を賭け事に使わないでよ。」
そう呟けば、お母さんが噴き出した。
「毒づく元気があれば、看病はいらないわね。」
そう言って本を手に立ち上がったお母さん。さすがうちの母らしく、サバサバしてる。
「お母さん。」
「ん?」
呼び止めた背中は、子供の頃見た時よりも更に小さくて。
「私、幸せになるよ。」
「当たり前よ。じゃないと許さないから。」
それなのにこんなにも大きな人は、私のことを思ってくれている。
お母さんが出て行って、ようやく笑えなくなった。
お母さんの声は少しだけ震えていた。こんなに強い人を心配させていることが苦しい、そして、夢の中なのか、現実なのか、私の名前を呼び続けていたその人に、早く会いたくて。
静かなこの場所で、一筋だけ涙を流した。