甘い脅迫生活
その社長夫人、絶対的につき
暗い室内。ただ静かに黙って、私の手を握っている人がいる。
分かりにくい人。それなのに、分かりやすい人。
「なんで言ってくれなかったんですか?」
「っっ、美織?」
ビクリと肩を震わせたその人の酷く怯えた表情が、月明りに照らされた。いつも会社で笑っている人が。パーティーで、誰を前にしても絶対的なオーラを放っているこの人が。
私の前では、とても小さく見える。
嗚呼、どうしても。
「あの時の”お兄ちゃん”ですよね。」
「っっ、」
惹かれてしまう。
「私はあの時、なんて言いましたか?」
「……別にいいよ。お兄ちゃんのせいじゃない。」
17年も前のことを一言一句覚えているこの人は、あの事件のことでどれだけ心を痛めていたのか。その後悔の深さは、顔を見れば分かる。
「そのままで受け取ってください。貴方のせいじゃなかったんですから。」
「っっ、しかし、」
口ごもるこの人は、どれだけ悩んできたんだろう。
どれだけ、後悔したんだろう。
その想いの深さが分かる分だけ、私のナカに、ある疑念が降り積もる。